利用者さんと歩み続ける認知症ケア~金城先生ふたたび~
楠の杜訪問看護ステーションでは、2024年10月に、わが国の臨床倫理、特にナラティヴエシックス(物語の倫理)研究の第一人者である琉球大学病院の金城隆展先生をお招きして、「病や老いのものがたり」を共に紡ぐことをテーマに講演会を開催しました。 そして、2026年1月16日、金城先生が再び調布に降臨!今回のテーマは「認知症ケア」。高齢者の5人に1人、すぐ身近にいる人が認知症になる時代に避けては通れないテーマです。

皆さんは「倫理」というとどんなイメージを抱きますか? 「なんだか難しい」「現場で働く私たちには縁遠い世界」ーーこういったイメージを持っている方も多いかもしれませんが、金城先生の「倫理」についての定義はいたってシンプル。
「倫理とは詰まるところ、選択である」
つまり、選ぶこと、選べる自由がその人らしさ(尊厳)に繋がるということ。
ところが、判断能力や記憶力が低下していく認知症の方は、自分で選ぶことが難しくなり、「選べる自由」は確実に狭まります。そうなった時、 「治療やケアの方針をどうやって決めればよいのか」
「本人の以前の意思と今の意思が相反する時、どちらを尊重すべきなのか」
介護・医療・福祉の現場で「意思決定支援」に真摯に向き合う方ほど、ジレンマを抱えることも多いのではないでしょうか。
今回は、そんな悩める私たちが認知症の方と歩み続けるための「認知症ケアの倫理」について、倫理コンサルトでもあり、哲学者でもある金城先生ならではの視点でお話していただきました。
当日は、前回以上に幅広い職種の方々、計86名の方にご参加いただき、先生の講義に加えて、「ある認知症の方と家族についての物語」というドラマ仕立ての動画を観て、会場内でワーク(近くの席の人同士で話し合い→発表)も行いました!
動画を観た後のワークの内容は…
①キーパーソンは誰でしょうか(同居している息子さん?過去に母親から色々話を聞いてた娘さん?普段お世話しているお嫁さん?)
②大腸がんを患っている認知症患者さんに積極的治療をすべきでしょうか(誰が決める?どうやって決める?)
③患者さんと家族の意思決定支援をどのように支援していけばよいでしょうか
どれも、私たちが日常場面で直面するリアルな問題です。簡単に答えが見つからない問いについて、たまたま会場で隣り合った方同士が熱心に話し合う姿に、金城先生も「すごい盛り上がりだね!」と感激していらっしゃいました。また、自ら挙手して意見を発表してくださった方の熱意が素晴らしく、対する先生の鋭い質問やツッコミにも愛があって、会場は温かな一体感に包まれました。 これらの対話のキャッチボールを通して、「すぐに正解にたどり着かなくてもいい、患者さん・利用者さんの幸せのために対話を重ねることこそが大切なんだ」ということに改めて気付かされた気がします。


2時間15分の講演会が本当にあっという間でしたが、講演会終了後のアンケート結果を見てみると、今回特に皆さんの心に深く刺さったのは「キーパーソン病」についてのよう。
介護・医療の現場では、「家族の中でキーパーソンを決めてください」という言葉が頻繁に飛び交います。そして大事なことはキーパーソンに決めてもらう…これが介護や医療の現場の日常です。
だからこそ、
「介護・医療スタッフやご家族は、キーパーソン病によって「無意識」に認知症の方本人を置き去りにしているのではないか」
「まず本人に『何をしてほしいと思っているか』『何ををしてほしくないのか』問いかけてみてください」
という先生のメッセージに対して、「ハッとした」「明日からまずご本人に問いかけてみたい」というコメントを沢山いただきました。また、認知症があってこれらの問いにストレートに答えられなくても、その方の行動、言動全てが「伏線」で、そういった伏線を私たちが見逃さなければ、ご本人が何がしたいのかが見えてくることを、動画を通して学びました。
ちなみに、ワーク①「キーパーソンは誰か」の答えは「全員」。キーパーソンは1人でなくていいのです。
むしろ、家族全員がキーパーソンになれるように「育てる」ことが重要!
そのためには、ご家族に「ご本人はどんな人でしたか?」と尋ねてみる。そして、本人の物語を家族の中で繰り返し循環させることによって、家族が「自分たちがこう思う」ではなく、「本人だったらきっとこう言うに違いない」にたどり着けるように、対話や支援を行うのが支援者の役割。「持ち帰って家族で話し合ってきてください」ではなく、介護・医療従事者も、時には自分もキーパーソンになる覚悟を持って「その方らしさとは何か」の話し合いの輪に入る。そうすると、一見すると「以前」の意思と「今」の意思が相反するように見えても本人らしさが見えてくるのでは、という先生のお話は、明日からの私たちの糧になったような気がします。

「認知症になっても見える景色は変わらない」
長谷川式認知症スケール(HDS-R)の生みの親であり、晩年自らが認知症であることを公表された長谷川和夫先生の言葉です。
「変わったのは「お世話の対象」として扱い始め、役割を奪っている私たちの側では?」
「相手を変えるのではなく、自分たちが変わる覚悟で相手に向き合うことが大切」
金城先生や問いかけや助言を胸に刻み、「彼らを守りつつ、役割を奪わないようにするために、最大限の倫理(=ご本人の幸せ)ついて頭を絞ること」の大切さを忘れずにいたいです。
そして、講演のたびに先生が必ず仰るのは「皆さん、思考停止したらダメですよ~考え続けてください!」
倫理とは思考停止しないこと。
アンケートにあった「変わりたいけれど自信がない。周囲にどうやって分かってもらえばいいのか自信がない」というご意見も、「諦めないで一人一人を尊重する道を探ることは楽しい道のり、その道を一人ではなく関係する人と共に進んでいきたい」というご意見も、思考停止せずに真剣に向き合おうとしているからこそ出てくるのだと思います。
楠の杜の私たちも思考停止せず、利用者さん、ご家族、支援者の方々、そして仲間と一緒に悩み、対話を続けていきたいと思います。


