失語症があってもチームのリーダーに!
こんにちは。言語聴覚士の加藤です。
皆さんは失語症がどんな症状かご存知ですか?
脳梗塞や頭部外傷などの後遺症で失語症になると、「話す」「聞く」「読む」「書く」といった言語機能が障害されます…と言われても、具体的なイメージが湧きにくいですよね。そんな時は、もし言葉のよく分からない外国に一人ぼっちで放り出されたら…という状況を思い浮かべてみてください。
・目が覚めたら言葉も文字も全く未知の世界のアラビア語圏の国だった
→症状が重度の方
・相手が言ってることは何となく分かるけれど、自分からは挨拶や単語を並べるのがやっとの英語圏
→軽度~中等度の方
いずれにしろ、失語症の方は、程度の差こそあれ、ある日突然外国に置き去りにされたような、心細く、もどかしい思いを抱えていらっしゃいます。
R7年3月にも当事業所のブログでご紹介させていただいたSさん。4年前に50代で脳梗塞になり、後遺症として右片麻痺と失語症がありますが、病院での半年間のリハビリを経て現在は一人暮らしをしています。私たちの事業所からは、看護師、理学療法士(PT)、言語聴覚士(ST)がそれぞれ週1回ずつ、他にも複数の事業所から障害ヘルパーさんが介入し、日常生活を支えています。
(冒頭の写真は、ヘルパーさんと買い物の途中で私たちの事業所に立ち寄ってくださった時、事務さんたちとパチリ📷)
R7年3月のブログはこちら👇👇
私がSさんと出会った3年半前は、失語症の中核症状となる「言葉が思い出せない」(喚語困難)とともに、言葉を構成する音を正しく発音したりすることが難しくなる「発語失行」という症状が特に強く、パッと口頭で伝えることが難しい状態でした。
例えば、ヘルパーさんとよく行く「調布」は「ドーズ」、「マルエツ」は「バツエズ」。言い直しているうちに正しい音にたどり着くこともありましたが、代わりの手段、例えば路線図や地図を描いて伝える方が多かったのです。周囲の人に伝えられないまま諦めてしまうこともあったようです。元々お話好きなだけに、もどかしい思いも人一倍強かったと思います。
STによる言語訓練ではご本人が言いたいことを聴き取り、言いにくい言葉を練習していましたが、60分×週1回だけの練習では限界があります。そこで、連絡ノートで看護師、リハビリ、ヘルパーさんと「こんなことが言えた!」「こんな言葉は言いづらかった」を積極的に共有することにした結果、会話練習の機会はほぼ毎日に!ドラえもんの登場人物の名前をリレー形式で練習したこともあります。

ノートを通してヘルパーさんからの、「マックで自分で注文が出来ました!ポテト塩抜きも言えてました!」といった報告をみんなで喜び合うことで、直接顔を合わせることのないスタッフ同士の横の絆、一体感が育まれたような気がします。
また、皆さんが介入時間に限りがある中でもご本人の言いたいことを先回りし過ぎず、上手に助け船を出してくださった結果、Sさん自身が「必ず伝わる、諦めなくていい」と思えたことが、さらに積極的に伝えようとする好循環に繋がったと思います。
3年半が経った今、言い直しながらも正しく言える名詞が飛躍的に増えて、動詞も思い出せるようになり、「(靴は)妹が買ってくれた。僕が選んで」など、短文で言えることも増えました。
一方で、「GU」(ユニクロの姉妹ブランド)が「ユーディー?ユーチューブ?」と上手く伝わらず、結局「G」の文字を思い出してよくやく伝わった、などといったこともありますが、言いたいことを途中で諦めることはありません。
医療や介護で「多職種連携」を語る時、「ご本人を真ん中にして、支援者が輪になって支える」といったイメージ図がよく出てきます。でも、今やSさんのチームは、Sさん自身がチームリーダー!何かやりたいことがあった時には、Sさんがまず自分で「いつ、誰に相談すればよいか」を考え、それを発話、文字、図などを駆使して伝える。私たちはリーダーの考えを実現するべくベストを尽くす。訪問看護やヘルパー事業所以外にも、ケアマネジャー、訪問診療、訪問薬局、デイサービス…Sさんのもとには心強いメンバーが集結しています。
少し前にも、帰りが夕方になる時のために、自転車に付けるようなライトを車椅子に付けたいと!ということがありましたが、Sさん主導でヘルパーさん付き添いの下で自転車屋さんに相談したり、ビックカメラに行ったりして、無事装着出来ました!
さらに、私たちが一方的に医療や介護サービスを提供するのではなく、Sさんを通して新しい世界を知ったり、覚えたり、楽しんだり。
最近の話題だけでも…
・国領駅前の三井住友銀行はイトーヨーカドーの3階に移転する。
・『報道ステーション』でケアマネジャー不足についての特集をやっていた。
・CMでおなじみの『伯方の塩』(「はっかったっのしお♪♪」脳内であのCMソングが頭に浮かびますよね!)が「カラオケでたった3秒で歌えるけど、高得点を出すのが意外と難しい」とバズってる。
・『魔法少女まどかマギカ』(まどマギ)は映画化され、カプセルトイ(ガチャ)でも大人気!
これらの情報は全てSさんがスタッフに教えてくださったことです。
訪問診療の先生にも伯方の塩のことを教えてあげたところ、次の診察の時に先生から「カラオケで歌ったよ!」と報告があったとSさん、すごく嬉しそうでした!

連絡ノートも「伯方の塩」でもちきり!

まどマギ、初めて知りました!
そして、私たちが記録を書く時には、録画した「ミュージックフェア」「うたコン」「SONGS」といった歌番組の中から支援者の年代に合わせて曲を選んで流して「おもてなし」。あまりに絶妙の選曲で、思わず一緒に歌うのに夢中になって記録の手が止まったり!Sさんもスタッフを楽しませるという役割を楽しんでいらっしゃるご様子です。
たとえ失語症があっても、私たち介護・医療従事者がその特性を理解し、尊重することで、利用者さん自身がそのチームのリーダーになることができる。そして、コミュニケーションにおいても対等な会話ができる。私にとっても改めて大きな学びとなりました。
これからもSさんという頼もしいリーダーの下、メンバーのみなさんと一緒に歩んでいこうと思います。そして、STとしては失語症の方を決して見知らぬ国に置き去りにしないことを大事にしていきます。
